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東京高等裁判所 昭和47年(ネ)1242号 判決 1977年11月24日

昭和四七年(ネ)第一二四二号事件控訴人

同年(ネ)第一五〇七号事件被控訴人

同年(ネ)第二四〇五号事件附帯被控訴人

(第一審被告)

松下電工株式会社

右代表者

丹羽正治

右訴訟代理人

阿部三郎

外六名

昭和四七年(ネ)第一五〇七号事件控訴人

(第一審原告)

菅波電線株式会社

右代表者

菅波吉雄

外一二名

右第一審原告ら一三名訴訟代理人

平山林吉

主文

本件各控訴及び各附帯控訴を棄却する。

但し、請求の減縮により、原判決の主文第一項中「年六分」とあるのは「年五分」に、商号の変更により、同第一、二、五項中「東浜電気」とあるのは「東京伊津政電気」に、「豊国機工」とあるのは「トヨクニ」に夫々変更された。

各控訴費用は夫々の控訴人の負担とし、各附帯控訴費用は附帯控訴人らの負担とする。

事実《省略》

理由

一当裁判所も、当審における新たな証拠調の結果をも参酌した上、第一審原告らの第一審被告に対する請求は、原判決が認容した限度(但し当審において減縮した請求の限度)において正当としてこれを認容し、その余は棄却すべきものと判断するのであるが、その事実認定及びこれに伴う判断は、次に附加訂正する外、原判決がその理由中に説示するところ(原判決一四枚目―記録四八丁―裏一〇行目から原判決二五枚目―記録五九丁―表五行目「棄却することとし、」迄)と同一であるからこれをここに引用する。

(一)〜(六) <省略>

(七) 原判決一八枚目―記録五二丁―裏八行目「と認められる」を削り、同裏九行目(六)以下原判決二〇枚目―記録五四丁―表二行目迄を次のとおり訂正する。

「(六) そして訴外会社の営業成績をみるに、訴外会社は昭和三八年三月末日の決算期において約一五七万円の、同年九月末日の仮決算において約二九七万円の欠損を出しているが、昭和三九年三月末日の決算期においては欠損が稍減少し約二二二万円となつており、又訴外会社は本件商品引上げ前には年間七〇〇〇万円余りの販売実績をもつており、その上その頃キリンビール高崎工場新築工事に要する電気材料を納入する契約がなされる見込もあり、工事進捗に伴い可成りの取引が予想され又その他の引合も見込まれている状態であり、通常の取引を継続していればたやすく倒産に至るような状態ではなかつた。

以上(一)ないし(六)の事実が認められ、<る。>

ところで第一審被告は訴外会社が当時倒産寸前であつた事情として、訴外会社は多くの債務をかかえ、欠損を続けており、手形の不渡を出した上商品の安売をしたこと等を挙げている。

しかしながら、前認定のように訴外会社は第一審被告に対して多額の債務を負担し早急に弁済することが不可能であつたものの、設立後日の浅い訴外会社としては暫くの間欠損が続くことは巳むを得ない場合もあり、その営業成績についても好転する材料を多く持つており、又手形不渡の件も他の手形に書き換えたり、売掛金に計上するなどして第一審被告は当時としては直ちに訴外会社に対して強硬手段をとることを考えていなかつたのであり、商品安売の点も<証拠>によると訴外会社が大量の在庫品を整理した際出た旧式品や瑕物を安売りしたものにすぎないことが窺われるのである。

そうだとすると、訴外会社が当時そのまま営業を継続すれば、本件商品引上げの有無に拘らず当然倒産の結果に陥つたものであるということはできないし、しかも商品の返還がおくれたことが本件倒産の致命的原因であるとするもその根本の原因は第一審被告会社の社員の違法な行為にあるというべきである。従つて本件商品引上げが原因となつて訴外会社の営業停止、倒産ひいては債権者らの債権回収不能を招いたものということを妨げず、その間には当然因果関係が認められるものである。」

(八) 原判決二〇枚目―記録五四丁―裏一行目「いのである。」の次に、

「すると同人の行為によつて訴外会社が倒産し、ために第一審原告らは訴外会社に対する債権の回収が不可能となつたのであるから、右行為が第一審原告らの債権を侵害したことは明らかであり、しかもその方法が自由競争の範囲の合法的手段で行われたのではなく、法規違反ないし公序良俗違反の不法な手段によつてなされたのであるから違法性があり、そこには不法行為が成立するものといわなければならない。」を加え、<以下、省略>

(吉岡進 前田亦夫 太田豊)

《参考・第一審判決》

【主文】被告は、

原告信和電機株式会社に対し金三六、四六〇円、同株式会社東京内外電機製作所に対し金六九五、六七九円、同隅田電機株式会社に対し金七四三、六五一円、同株式会社弘電社に対し金二、〇〇三、一七〇円、同倉毛エレクト工業株式会社に対し金四六、八六〇円、同東浜電気株式会社に対し金三〇〇、八六五円、同株式会社指月電機製作所に対し金四一三、一六六円、同両毛富士電販株式会社に対し金二一三、〇九〇円、同株式会社菊屋電機部に対し金二三七、八五〇円、同中央電線工業株式会社に対し金六一二、二〇六円、同有限会社スミダ電機製作所に対し金一八六、六五七円、同豊国機工株式会社に対し金五八八、三四五円、および右各金額に対する昭和四二年一二月四日から支払済に至る迄年六分の割合による金銭を支払え。

原告株式会社東京内外電機製作所、同株式会社弘電社、同倉毛エレクト工業株式会社、同東浜電気株式会社、同株式会社指月電機製作所、同両毛富士電販株式会社、同株式会社菊屋電機部、同中央電線工業株式会社、同有限会社スミダ電機製作所、同豊国機工株式会社のその余の請求をいずれも棄却する。

原告菅波電線株式会社の請求を棄却する。

訴訟費用は、原告菅波電線株式会社と被告との間では同原告の負担、同信和電機株式会社、同隅田電機株式会社と被告との間ではいずれも被告の負担、その余の原告等と被告との間では、いずれも之を七分し、その一を原告等の負担、その余を被告の負担とする。

原告信和電機株式会社が金一万円、同東京内外電機製作所が金一七万円、同隅田電機株式会社が金一八万円、同株式会社弘電社が金五〇万円、同倉毛エレクト工業株式会社が金一万二千円、同東浜電気株式会社が金八万円、同株式会社指月電機製作所が金一〇万円、同両毛富士電販株式会社が金五万円、同株式会社菊屋電機部が金六万円、同中央電線工業株式会社が金一五万円、同有限会社スミダ電機製作所が金四万円、同豊国機工株式会社が金一五万円、

の各担保を供するときは、第一項に限り、それぞれ仮に執行することができる。

【事実】 (当事者の求める裁判)

一、原告等

被告は

原告菅波電線株式会社に対し

金八三九、六七九円、

同信和電機株式会社に対し

金三六、四六〇円、

同株式会社東京内外電機製作所に対し

金八一五、七四九円、

同隅田電機株式会社に対し

金七四三、六五一円、

同株式会社弘電社に対し

金二、一四九、七五〇円、

同倉毛エレクト工業株式会社に対し

金六一、二六〇円、

同東浜電気株式会社に対し

金四九六、〇一五円、

同株式会社指月電機製作所に対し

金六四三、一〇六円、

同両毛富士電販株式会社に対し

金二六七、二九〇円、

同株式会社菊屋電機部に対し

金二五〇、九五〇円、

同中央電線工業株式会社に対し

金一、〇八三、九二三円、

同有限会社スミダ電機製作所に対し

金二一九、八〇五円、

同豊国機工株式会社に対し

金七〇八、五一〇円、

および右各金額に対する昭和四二年一二月四日から支払済に至る迄年六分の割合による金銭を支払え。

訴訟費用は被告の負担とする。

右判決および仮執行の宣言。

二、被告

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告等の負担とする。

(当事者の主張)

第一 原告等の請求原因

一 原告等は電気工事材料の製造又は販売を業とする会社であり、被告会社も右同様の事業を営む会社である。

二 原告等は同じ事業を営む訴外不二電工株式会社(以下訴外会社と略称する)に対し継続的取引契約を結んで昭和三七年三月頃から同三九年一一月迄の間に電気工事材料を売渡して来たが、その間訴外会社は格別代金の支払を遅滞したことはなかつた。

三、ところが昭和三九年一一月一二日午後九時頃被告会社関東営業所高崎駐在員事務所主任であつた被告会社々員小松大作は部下の社員を指揮して、

(一) 高崎市北双葉町四九番地の訴外会社倉庫の施錠を破壊して内部に侵入し、訴外会社所有の開閉器類、照明器具類、コンデンサー類等二、四五七点位および電線類九、五〇三米位等電気工事材料(時価合計一、四七一、三七四円相当)を、

(二) 更に同日午後一〇時三〇分頃同市通町五九番地の訴外会社事務所兼店舗内に侵入し、訴外会社所有の開閉器類、配線器具類、照明器具類、碍子類、コンデンサー類等六〇、七五八点および電線類三〇、〇〇〇米位等電気工事材料(時価合計二、二九五、五七〇円相当)を、

いずれも無断で搬出窃取した。

四、それ迄は訴外会社の原告等に対する代金の支払は順調であつたのに、右事件発生のため訴外会社は金融機関や取引先の信用を失墜し、正常取引を停止され、売掛金の回収も困難となつた。

五、その後同年一二月九日になつて被告は漸く引上げた商品を返還したが、これより先原告等は訴外会社の再建を目的として、訴外会社の債権者の中から選出された債権者委員会(後に再建委員会となる)が発足して訴外会社の経営を管理することとなり、同委員会の監督の下に、訴外会社の第二会社たる有限会社宮川商事が翌昭和四〇年一月より訴外会社の営業を事実上再開し、債権者や金融機関の協力を得る前提の下に訴外会社の再建を目標としてその経営に乗出したが、取引先の協力が期待に反して得られなかつたので、同年六月頃に至つて経営が行詰り、被告会社から引取つた商品の販売も思うに任せず、結局訴外会社の再建は失敗に終り、原告等訴外会社の債権者の債権も回収不能となつた。

六、このように被告会社の社員の不法行為のため訴外会社の営業は停止するの巳むなきに至り、取引先や金融機関の信用を失墜し、再建委員会の必死の努力にも拘らず倒産し、その結果訴外会社の原告等に対する買掛金支払債務の履行を不能ならしめたので、原告等はその各売掛金相当額の損害を蒙るに至つた。

七、仮に右のような損害が認められないとしても、被告会社々員による商品の持出がなかつたならば訴外会社は倒産せず、正常に原告等と取引を継続することができたと思われるので、右不法行為は、単に訴外会社の営業上の信用を害したというに止まらず、原告等の営業権を侵害したというべきであり、それによつて原告等に対し前記売掛金相当額の損害を与えたものである。

八、本件商品の持出を実行したのは被告会社関東営業所高崎駐在員事務所主任であつた小松大作とその指揮下にある数名の被告会社々員であり、それは被告の営業上の債権の保全のため行なわれたのであるから、被告会社の被用者がその事業の執行に付き為したものである。

しかも右の者等は、在庫高の約三分の二強に当る大量の商品を一時に持去つたもので、引上げの結果訴外会社の営業が直ちに停止し混乱を生ずるに至ることを認識し、それがひいて倒産につながることは当然認識していたし、その結果訴外会社と取引関係ある他の債権者の売掛金が回収困難又は不能となることも認識し、又は少なくとも認識し得べかりしものであつた。

従つて小松大作等の使用者たる被告会社は、訴外会社に対する売掛債権の回収不能により蒙つた原告等の損害を賠償する責任がある。そして原告等の損害の額はそれぞれ請求の趣旨記載のとおりであるから、原告等は被告に対しそれぞれ右と同額の金銭および右各金額に対する訴状送達の翌日である昭和四二年一二月四日から各支払済に至る迄の年六分の商事法定利率による遅延損害金の支払を請求する。<以下、事実欄省略>

【理由】 一、原告等主張の日時、場所において、被告会社関東営業所高崎駐在員事務所主任であつた小松大作が数名の部下を指図し、訴外会社所有の在庫商品を無断搬出したことは争いないところ、<証拠>を総合すれば、右搬出した商品の価額の総額は、被告会社の製品約八〇万円、原告等その他の他社が納入した商品約三三〇万円、合計約四一〇万円であつて、その額は、当時の在庫商品の約三分の二に当ることが認められる。

二 原告等は、右商品の引上によつて訴外会社が倒産に追込まれ、原告等の訴外会社に対する売掛金債権が回収不能となり、損害を蒙つたと主張するに対し、被告は右因果関係の存在を争うので先ずこの点について検討する。

<証拠>を総合すると以下の事実が認められる。すなわち、

(一) 訴外会社は原告等十数社と取引関係があつたほか、被告会社と代理店契約を結び、電気工事材料の販売を営んでいたものであるが、他の取引先との関係では格別債務を延滞することもなかつたにも拘らず、主たる取引先である被告との関係では兎角買掛代金の支払が遅滞していたが、昭和三九年一一月一〇日における被告に対する買掛金残高は金五、八一〇、九九三円あり、ほかに支払手形を加えると約金八〇〇万円の債務を負担するに至り、その頃被告会社の担当者は右債権の回収に苦慮していた。被告は既にそれ以前から、訴外会社の被告に対する支払手形につき、当事者間の話合により期日を延期したり、書替をするなどの措置を講じて協力して来たが、結局最後に、(イ)訴外会社の代表者であつた宮川雅次振出の昭和三九年八月三一日満期の金八〇二、八九八円、(ロ)同人振出の同年九月三〇日満期の金七〇万円、(ハ)訴外会社振出の同年九月二〇日満期の金三〇万円、の三通の約束手形が不渡となつた。

(二) ところが昭和三九年一一月上旬に訴外会社が在庫商品中被告会社の製品を相当多量に安売したことから、直接の担当者であつた被告会社関東営業所高崎駐在員事務所主任小松大作は訴外会社に対する債権の回収につき不安を抱き、原告等主張のように、同年一一月一二日夜数名の部下と共に訴外会社の事務所および倉庫の二箇所において、施錠を外して在庫商品を大量(価額にして全体の約三分の二)に搬出し持去つたのである。

(三) その後訴外会社から被告に対し引上商品の返還を申し入れたところ、被告側は、預り品を受取つた旨の受領証を書くよう要求したので、訴外会社としては、盗品であつて預り品ではないと主張して之を拒絶する等のやり取りがあつたことから、意見が対立したまゝ日を過し、漸く同年一二月九日になつて商品が返還されたのである。

(四) これより先訴外会社の債権者は同年一一月二九日に会合して対策を協議し、債権者中より委員を選出して債権者委員会を設け、その後も会合を重ねて協議した結果、同年一二月二五日債権者委員会を再建委員会に切替えることとし、訴外会社の再建を目的として、同委員会の管理の下に、返還された商品を販売するなど、訴外会社の第二会社有限会社宮川商事として、翌四〇年一月より営業を開始することを決定した。その結果債権者等の協力の下に、一時債権の取立を棚上げし、商品を出荷し、手形により売掛金の支払期日を繰延べるなどの措置を講じ、宮川商事の営業を扶けて再建に努力したが、既に休業期間中に信用を失墜し、金融機関の協力を得られず、得意先も失つた為、再開した営業も順調に進まず、債権者たる仕入先の協力も逐次失われるに至り、一月余りで営業を停止し、仕入価格にして四〇〇万円を超える引上商品も約九五万円の価格で販売したに止まり、それも結局主として経費、人件費等に消費された丈で、収益は皆無であり、再建は失敗に帰したのである。

(五) ところで前記のように、被告は訴外会社に対して多額の売掛金債権を有し、その回収に苦慮していたけれども、当時関東営業所の首脳部は、強いて法的手続に訴えるという強硬な態度を考慮していた訳ではなく、寧ろ訴外会社に対し引続き援助を与え乍ら営業成績の好転を待つて逐次債権の回収をはかるという方針を採つていたようであるが、敢て独断で商品の引上を断行した小松大作としても、一旦引上げた後には、訴外会社との話合いによつて解決をはかる意図であつたと認められる。

(六) 他方訴外会社の営業成績は欠損を生ずる状況にあつたけれども、昭和三九年三月頃麒麟麦酒高崎工場新築工事に要する電気工事材料を訴外会社が納入する契約が成立し、工事の進捗に伴い今後とも相当多額の取引が見込まれていたし、事件直前には月商約七〇〇万円に達しており、訴外会社の将来の営業成績の向上には明るい期待が持たれていたのである。

そのほか、引上商品の返還が遅れた(前認定の(三)参照)ことについて、当初訴外会社が、在庫商品が盗まれたものであると主張して預り品としての受領を拒絶したことがその一因をなすことを否定できないけれども、もともと被告会社の社員が窃盗となるような行為によつて商品を引上げたことは事実であるから、預り品としては受取れないと云われたからといつて、之を受領遅滞であるとして訴外会社に責任を転稼することは許されない。

以上諸般の事情を総合考察するに、訴外会社が被告に対して多額の債務を負担し、早急に之を完済することは困難な状況にあつたけれども、営業成績も好転するきざしがあつたし、訴外会社の関東営業所首脳部も直ちに訴外会社に対し強硬手段を執ることを考えてはいなかつたのであるから、訴外会社が事件当時倒産寸前の状況にあつて、商品の引上が無かつたとしても倒産したであろうと認めることは困難であり、しかも商品の返還の遅れも、根本の原因は被告会社々員の乱暴な行為にあると認めて妨げないのであるから、結局右商品の引上が原因となつて訴外会社の営業の停止、倒産、その結果としての他の債権者等の債権回収不能の事態を招いたものと認められるので、右引上行為と原告等の蒙つた損害との間の因果関係の成立を否定することはできない。

三、訴外会社の在庫商品を引上げた被告会社関東営業所高崎駐在員事務所主任小松大作の行為につき、被告は同人に過失がなかつたと争うけれども、価額にして在庫の全商品の約三分の二に当る大量の商品を搬出し去つたことが訴外会社の経営に重大な支障を及ぼすに至るべきことは見易い事理であつて、それが取引関係ある金融機関や得意先の信用を失墜する危険性も大であるから、ひいては訴外会社の倒産につながり、よつて他の債権者に迷惑をかけることも認識し得べかりしものと認めるのが相当であつて、それを認識しなかつたとすれば小松に過失があつたことを否定し得ないのである。そして同人の商品搬出行為が被告会社の営業上の債権の保全を企図して為されたことは<証拠>により認められるので、右は被用者により被告会社の事業の執行につき為されたものというべきである。

四、尤も被告は、小松の為した商品引上は、債権を保全する為巳むを得ない行為であつて違法性を欠くと主張するけれども、前認定の事情によつて明かなように、明白に違法な手段によつて在庫商品を無断搬出したものであるのみならず、他に債権回収の手段が無かつたとも認められないので、右主張は排斥を免れない。

五、前掲の証拠によれば、原告等は訴外会社に対しそれぞれその主張の額の売掛金債権を有していたことが認められるが、被告会社々員の商品引上の結果として訴外会社が倒産し、債権の回収が不能となつたのであるから、原告等はそれぞれの債権額と同額の損害を蒙つたものと云える。

六、ところで小松の引上げた商品は昭和三九年一二月九日に返還されたのであるが、<証拠>によれば、その措置をめぐつて債権者間において意見が分れ、右商品を処分し、又はその返品を受けることによつて債権の一部に充当するか、それとも、訴外会社の再建に協力する為に引渡すか、について議論が交された揚句、前認定のように、結局再建委員会の管理の下に第二会社たる有限会社宮川商事に販売させることとしたのであるが、既に訴外会社の信用失墜等情勢が不利となつていて、再建は失敗に帰し、前記のように原告等はその全債権を回収することが不能となつたのである。

七、以上認定の事実(なお前出二、(四)参照)によつて考察するに、引上げられた商品が返還された段階においては、原告等はその債権の一部を回収することが可能であつたにも拘らず、これを為すことなく、当時既に訴外会社がその信用を失墜して金融機関、得意先、仕入先等取引関係者等の協力を得ることが困難となつている情勢を正しく判断することができず、再建委員会を設けて営業の再開に踏切つたものの、その経営は早晩蹉跌せざるを得なかつたものであり、そのため原告等はそのすべての債権を回収することができなくなつたのであるが、右のような事態の下において会社の再建をはかることは、社会通念上、通常の事例に属するものとは云えないので、再建委員会設置以後右損害発生に至る経緯は、通常予見し得べからざる特別事情に属するものというべきであり、且つ、商品引上を為した被告会社々員が之を予見していたという証拠はない。しかもそれは他面において、被害者たる原告等の過失ある行為が損害を増大した場合であるから、営業再開以後における増大した損害については、被告において賠償の責に任ずべきものではない。

前説示のように、引上げられた商品が返還された時点において、名債権者はそれぞれ納入した商品の返品を受けて売掛債権の一部を回収することが可能であつたし、又それは、債務者倒産の際にしばしば行なわれる措置であるから、原告等の有する債権額のうち、返品により回収可能であつた価額を控除した分が、本件不法行為と相当因果関係ある損害ということができる。

八、そこで<証拠>を総合し、原告等の有した前認定の各売掛債権額から、半端物や毀れ易い品物などを除いて、返品可能と認められる各社の商品の価額を控除した額につき賠償請求を為し得るのである。

そこで原告等につきそれぞれその額を算定するに、原告菅波電線株式会社の債権額は金八三九、六七九円であるところ、返品可能な同社の商品の価額は計金一〇〇万円を超えるので、請求金額のすべてを回収し得た筈であつて、被告に賠償を請求し得べき損害はないこととなる。

原告信和電機株式会社については返品され得べき商品は無いので、その債権額金三六、四六〇円の全額について賠償請求を為し得るのである。

原告株式会社東京内外電機製作所については、その債権額金八一五、七四九円から回収可能な商品価額金一二〇、〇七〇円を控除した額金六九五、六七九円、同隅田電機株式会社についてはその債権額金七四三、六五一円の全額、同株式会社弘電社については、その債権額金二、一四九、七五〇円から回収可能な商品価額金一四六、五八〇円を控除した金二、〇〇三、一七〇円、同倉毛エレクト工業株式会社については、その債権額金六一、二六〇円から回収可能な商品価額金一四、四〇〇円を控除した金四六、八六〇円、同東浜電気株式会社については、その債権額金四九六、〇一五円から回収可能な商品価額金一九五、一五〇円を控除した金三〇〇、八六五円、同株式会社指月電機製作所については、その債権額金六四三、一〇六円から回収可能な商品価額金二二九、九四〇円を控除した金四一三、一六六円、同両毛富士電販株式会社については、その債権額金二六七、二九〇円から回収可能な商品価額金五四、二〇〇円を控除した金二一三、〇九〇円、同株式会社菊屋電機部については、その債権額金二五〇、九五〇円から回収可能な商品価額金一三、一〇〇円を控除した金二三七、八五〇円、同中央電線工業株式会社については、その債権額金一、〇八三、九二三円から回収可能な商品価額金四七一、七一七円を控除した金六一二、二〇六円、同有限会社スミダ電機製作所については、その債権額金二一九、八〇五円から回収可能な商品価額金三三、一四八円を控除した金一八六、六五七円、同豊国機工株式会社については、その債権額金七〇八、五一〇円から回収可能な商品価額金一二〇、一六五円を控除した金五八八、三四五円、がいずれも本件不法行為と相当因果関係ある損害として、原告等は小松大作の使用者たる被告に対しその賠償請求権を有するのである。

九、最後に被告主張の消滅時効の抗弁について判断する。

前認定のように、被告会社々員による商品引上後、原告等はしばしば会合を重ねて対策を協議した結果、昭和三九年一二月二五日の債権者委員会において、訴外会社の再建をはかることに意見が一致し、翌年一月から有限会社宮川商事として営業を再開させたのであつて、当時原告等は、その債権が将来において回収可能となることを期待していたのであつたが、再開後の経営が不振であつたので、茲に至つて始めて債権の回収が困難であることを知り、原告等は損害の発生を知つたものというべきである。そうすると、本訴が提訴された昭和四二年一一月二八日当時は、原告等の損害賠償請求権は未だ時効にかかつてはいなかつたのであるから、被告の主張は排斥を免れない。<以下、省略>

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